研究概要 |
研究代表者らが有機固体の構造物性相関を解明すべく進めてきた紫外光電子分光法による電子構造研究の結果を踏まえ、新しい構造・物性を示す分子集合体構築のため、分子間相互作用も制御可能な特徴的電子構造をもつ分子の設計・合成を本研究で目指す。BTQBTなど多元的分子間相互作用を示す単成分物質も既知ながら、分子性導体の研究分野ではTMTSF、BEDT-TTFなどTTF誘導体の電荷移動錯塩に関心が集まっており、今も新しいドナーやアクセプターの開発が盛んである。他方、代表者らはドナーとアクセプターの両性(amphotericity)を具えた黒鉛を参照とし、ドナー、アクセプター性の2つのπ電子系(それぞれD、A)を適宜つないで、分子内/間電荷移動相互作用の兼ね合いで凝集構造制御も期待しうる、高度の両性を具えた化合物の創出を着想した。 本年度はそのような高度両性化合物の候補を設計し、その予備的合成を試みた。分子設計では、DとAの選択の外、両電子系の特性は保ち量子的情報が交換可能な結合形態を考えた。そして 1,3-dithiaindanylidene(1)、4,5-ethylenedithio-1,3-dithiol-2-ylidene(2)、tetrathiafulvalene skeleton(3)等のD、imidazolylidene-4,5-dicarboxylic anhydride(4)、4-dicyanomethylenecyclohexa-2,5-dienylidene(5)、tetracyanoquinodimethane skeleton(6)等のAの候補や、両者をつなぐ結合について、関連既知データ、分子軌道計算、類縁化合物の分子特性観測などに基づいて評価し、適度な強さの共役系(擬共役系)と思われるキノイド結合で2と5をつないだ化合物を1次目標とした。その予備的合成では、ステップ数がやや多くとも確実性の高い方法の選択や、キノイド構造の生成のためのカップリング反応の改良などを行い、概ね目標に近づきつつある。なおこれらの合成・分離・生成の各段階において、備品として購入したデジタルマルチ温度計が極めて有効にはたらいている。
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