研究概要 |
真核細胞のDNA複製調節に転写因子が関与することを示す知見が近年蓄積しつつある。本研究ではこの転写因子によるDNA複製調節についてポリオーマウイルスをモデル系として検討した。すでに転写因子のc-Jun,c-Fos,遺伝子産物がin vivoでポリオーマウイルスのDNA複製を強く促進することを報告している。そこで本年度は促進作用の分子機構解明のためポリオーマウイルスのin vitro複製系を構築して解析を試みた。精製蛋白質を用いたin vitro複製系を用いて研究計画1)のように詳細な条件の検討をおこなったがc-Jun,c-Fos蛋白質による複製反応の顕著な促進を再現できなかった。そこで研究計画3)で述べたごとく、DNA合成に先立つ複製開始の重要な反応であるLTによる2本鎖DNAのunwindingのin vitroでの再現を試み成功した。この系では複製開始点とAP1結合部位を含む300bpの直鎖状2本鎖DNAを用い、LT,RP-Aを加えるとATPおよび複製開始点依存的に2本鎖DNAがunwindされて一本鎖DNAとなる。この系にc-Jun,c-Fosを加えるとunwinding活性が5倍程度促進された。c-Junのホモダイマーによっても活性化がみられる。またこの活性化は特にLTが低濃度の時に顕著であった。このことはc-JunがLTとの相互作用の結果、LTの複製開始反応での機能、おそらくは複製開始点での複製開始複合体の形成を促進していることを示している。以上の結果はc-Junが細胞の染色体においても複製開始点でLTの宿主ホモログと相互作用する可能性を示している。そのような因子は宿主DNA複製の調節に重要な役割を果たしていると思われるがそのような因子を同定したものはいない。c-JunのLTとの相互作用に必要な領域を決定し、その領域が複製活性化に必須であることが確認できたならば、その領域と相互作用する宿主因子をスクリーニングする事で宿主のLTホモログを同定することが可能ではないかと考えている。
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