研究概要 |
脂質の膜を横切る移動(フリップ-フロップ)の速度は人工膜系では極めて遅く、半減期は数週間以上である。一方生体膜ではしばしば半減期数分の非常に速いフリップ-フロップが観察される。このような脂質の速いフリップ-フロップはフリッパーゼとよばれるタンパク質が触媒していると考えられている。細胞はいくつかのフリッパーゼを持っていると考えられるがこのうち最も詳しく調べられているのは動物細胞形質膜のフリッパーゼである。このタンパク質はホスファチジルセリンに特異性が高く、ATP依存的に脂質の外層から内層への移動を触媒する。形質膜フリッパーゼの生体内での機能はわかっていないが、膜脂質の非対称性の維持やエンドサイトーシスに重要な役割を果たしていると考えられている。 我々は以前に細胞外のホスファチジルセリンがフリップ-フロップによって細胞内へと取り込まれることを示唆する結果を得ている(Kobayash,T.,and Arakawa,Y.(1991)J.Cell Biol.113,235-244)。ホスファチジルセリンの細胞への取り込みを調べている過程で我々は不飽和脂肪酸を有するホスファチジルセリンには細胞毒性があることに気付いた。ホスファチジルセリンに耐性のCHO細胞の変異株を取得し、形質膜フリッパーゼの活性を測定したところほぼ40%の株がホスファチジルセリンのフリップ-フロップの活性を欠損していた。このような変異株を用いて形質膜フリッパーゼの小胞輸送における役割について検討したところ、変異株ではルシファーイエロ-および西洋ワサビパーオキシダーゼ(HRP)の取り込みで見たエンドサイトーシスが親株の半分程度に減少していた。このことはエンドサイトーシスにリン脂質のフリップ-フロップが関与していることを示唆している。
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