研究概要 |
HIV調節遺伝子nef(3'orf)は、ウィルスゲノム3'末端LTRと一部を重複した位置に存在する遺伝子で、HIV、SIV(サル免疫不全ウィルス)及びレンチウィルスに特異的な遺伝子である。negative factorとしてのnefは、ウィルス複製を抑制すると報告された。しかし、nef遺伝子欠損HIVを用いたin vivoの実験から,nefはウィルス感染性に関しposotiveな影響を与える事が最近明らかになった。一方、SIVを用いたin vivoでの感染動物実験では、nefは感染宿主内のウィルス産生を助長し、AIDSの病状を憎悪すると報告されている^1。 筆者は、「HIV遅発病はNef抗原によるT細胞環境の遷移により、HIVトロピズムが変化することで成立する」という仮説の証明の為、Nef抗原の表出ドメインをエピトープマップにより検索し、加えて、その生物学的意義を考察する目的で、非感染細胞との結合能、シンシチウム合成能における単クローン抗体での抑制能を検討した。 バキュロウィルス合成HIV-1Nef蛋白を抗原とし、抗Nef単クローン抗体(mAb)を作製した。この抗体で感染細胞上のNef抗原が検出された。そこで細胞上のNef抗原部位を検討する為、エピトープマップを行った。F1,E7,E9,4H4抗体はそれぞれ148-157、192-206、158-206、1-33のNef分子内のアミノ酸配列を認識していた。E7、E9両抗体は、F1より感染細胞膜上での反応は強く、4H4では、陰性であった。このことは、Nef抗原C末端部位がHIV-1感染T細胞株及び末梢リンパ球上に表出しているとを示唆する結果であった。Nef抗原と非感染T細胞との結合反応を検討した。Nef抗原は、CD4^+T細胞株と末梢CD4^+Tリンパ球の一部に結合し、この結合は、E7、E9抗体により特異的に阻害された。更に感染細胞と非感染細胞でのシンシチウム合成能を上記抗体は減弱させた。これらの結果は、Nef抗原の細胞表在部位がHIV-1感染細胞と非感染細胞間の相互作用に重要な役割を持つことを示している。
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