研究概要 |
シナプス伝達に関連し、presynapseに働く遺伝子を中心に解析を行っている。Presynapseでの情報伝達は、膜脱分極に伴う刺激伝導、神経終末でのCa^<++>の流入そしてシナプス小胞輸送に大別される。本研究では小胞輸送の解析を中心に行った。C.elegansではこれまで小胞輸送に働く遺伝子として、キネシン(unc-104)、アセチルコリン合成酵素(cha-1)、アセチルコリントランスポーター(unc-17)をコードする遺伝子等が明らかにされている。我々は、この過程に働くunc-18遺伝子を発見し、解析を行ってきた。unc-18がコードするタンパクは酵母のSEC1と似ていることから、unc-17より下流で、シナプス小胞が形質膜に結合、融合する過程に働くことが推定された。更に、unc-104,cha-1,unc-17のヌル変異が致死性であるのに対し、unc-18ヌル変異が致死でないことから、modulatoryな働きをしていることが推定された。そこでこの可能性を遺伝子発現と遺伝子産物の分子性状から検証した。 UNC-18は分子量67,000で、荷重アミノ酸に富み分子全体が親水性であることから細胞質性可溶性タンパクであると推定された。実際、抗体を作成し、immunogoldによって、ventral nerve cordの神経軸索での局在を電顕観察したが特定組織への親和性はみられなかった。また昆虫Sf9細胞で過剰発現させると、UNC-18の大部分は細胞質に存在していた。次にC.elegansのシナプス小胞を精製し、その過程でのUNC-18はタンパクをWestern法で調べた。その結果、大部分は可溶性であるが、1部は小胞と親和性を持っていることが明らかになった。 このタンパクは、cyclic AMP dependent protein kinase (PKA),casein kinase II (CKII)及びprotein kinase C (PKC)によるリン酸化モチーフを有していた。そこでin vitroでこれらの酵素によるリン酸化の可能性を探った。その結果PKCによってのみリン酸化された。リン酸化の程度は化学量論的でコントロールとして用いたHistone III-Sとほぼ同じで合った。リン酸化部位は4ケ所で、そのうち3ケ所は哺乳類でも保持されていた。こうしたことから、リン酸化は生理的役割を担っていると推定された。 この遺伝子は神経系に特異的に発現する。この発現はATG上流1kb以内に存在することが明らかになった。更にdeletion analysisを行い、ATGからおよそ400bp上流の100bpDNA断片にシスエレメントが存在していた。現在その中の最小領域の決定と結合して発現をするトランス因子の同定を行っている。 最近UNC-18の哺乳類でのホモログ(n-Sec1/Munc-18)が分離され、神経終末形質膜にあるシンタキシンと相互作用していることが明らかにされた。UNC-18とC.elegansシンタキシンとの相互作用を知る目的で、degenerate PCRにより、神経系特異的シンタキシンAのhomologを単離した。このクローンを用い、広汎なcDNAライブラリースクリーニングを行いおよそ60cDNAクローンを分離した。塩基配列からそれらは3つのクローンからなることが明らかになった。推定されるアミノ酸配列から、これは何れもC末側が形質膜にアンカーとして結合し、3ケ所の他のタンパクと相互作用していると推定されるamphipathic領域が存在していた。 UNC-18とシンタキシンとの相互作用を知るため、GAL4転写活性を利用したYeast two hybrid systemを採用した。各cloneをtransformationすると、GAL4活性が観察され、相互作用していることが確認された。
|