研究概要 |
一群のカンディダ酵母の核の遺伝子発現系においてCUGコドンがロイシンではなくセリンに翻訳される特異な変則暗号を使用している。さらに5SrRNAなどを用いた分子系統学的研究から、この酵母の世界においてCUGコドンに対応するアミノ酸がロイシン→セリン→ロイシンと二度変化していることを明らかにした。またこの変則暗号の解読を行うセリンtRNAを,これらのカンディダ酵母から単離し一次構造解析を報告した。この解析結果から、CUGに対応するセリンtRNAは通常のパン酵母のセリンtRNAとは違ったいくつかのユニークな特徴を持つ。その中で,最も興味深い点は、アンチコドンの5'側の塩基(33位)がUではない点である。開始tRNA以外の既知のtRNAでは,この部位は例外なくUであるのに対して,この変則暗号に特異的なセリンtRNAはG(一例のみC)をこの位置に持つ。また、CUGコドンを多様するC.cylindraceaではアンチコドンの3'隣接塩基は末修飾のAである(これはセリンtRNAの特徴)が、それ以外ではロイシンのtRNAと同様にm^1Gである。こうしたアンチコドンの特異な構造がこの変則暗号の発生と普遍暗号への復帰の過程に,何らかの役割を果たしたと可能性が高い。この点を明らかにするために,機能と構造の二面からアプローチしている。 まずこの33位がUではなくGになることでロイシルtRNA合成酵素の誤った結合を防止するための,負の決定因子の一つとして機能しているのではないかと考え、次のような実験を行った。C.zeylanoidesのtRNAの33を分子整形によって他の塩基に置換し、ロイシルtRNA合成酵素によるミスチャージの程度を測定した。その結果,U,Cに置換したものではミスチャージが上昇した。それに対して、Aに置換したものでは減少した。この結果は、酵母のロイシルtRNA合成酵素はアンチコドン領域を認識していることが示された。しかし、G33であることによってミスチャージを完全に防止しているとは結論できなかった。この点については、現在T7転写系での変異RNAを作製して詳細に解析しつつある。また37位の塩基の役割については、C.cylindraceaのtRNA(Aを持つ)と、それ以外のm^1GをもつtRNAのロイシル化を検討したところ、Aであることによってミスチャージが強く押さえられることが明らかになった。つまり、負の決定因子である可能性が高いことが明らかになった。
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