研究概要 |
生物における情報処理の特長は、歩行の場合に見られるように、目的である速度、方向等を制御しながら変化する環境下で制御情報をリアルタイムで自律的に生成する柔軟性を持つことである。各肢を動かす神経系は変化する環境の下でも、個体の要求する方向や速度を満足しながら最もエネルギー変換効率の良い動きを生み出すのが理想的な機能である。昨年本重点研究において、変化に応じて情報を生成する「最大多数の最小不満足」則をモデルに導入することで、歩行パターンが速度に依存して相転移的に変化する自律分散型システムを構築することに成功した(Biol.Cybern.69,183-193,1993)。これは目的速度を実現するという条件の下で、各筋肉が最適効率で働くように、協調的あるいは競合的に相互作用することによって制御情報を生成するモデルである。 本年度はこのシステムの普遍的な性質を研究する目的で、システムが歩行速度だけではなく、システムにかかる負荷が変化する場合や、突然足がもぎ取られるような故障が起きたときに、学習無しにその状況でも適切な歩行パターンを生成出来るかどうかを研究した(Biol.Cybern.70,505-512,1994)。結果は1)進行方向に平行な加重を与えた場合、その加重の増加に伴って歩行パターンの間の相転移点が低速度側にシフトする。2)対応する肢の力の寄与及び力のFeedbackのみを無効にす下腿部切除では正常時の同様のパターンを生成するが、その相転移点は低速度側にシフトする。位置の制御及び位置のFeedbackまで無効にする上腿部切除では、肢の位置に関するFeedbackによるローカルな拘束条件が変化するため、位相関係の組替えが起こり、主として2種類のパターンに収束し、4足動物と同様な歩き方をする。これらは昆虫を用いた実験に非常によく対応することから、普遍性を持つモデルであると言える。
|