研究概要 |
本研究では近見反応の内,輻輳運動について大脳LS皮質(PMLS野)内の異なる微小分野が果たす役割について分析した。実験には,接近する視標に対して輻輳運動を行なうよう訓練したネコを用いた。 1.LS皮質(PMLS野)の尾側中心視領域を片側局所破壊すると,輻輳運動の振幅・ピーク速度が減少し,輻輳運動の左・右眼成分が非対称となった。破壊後1ヶ月では,輻輳運動の振幅・ピーク速度の減少は回復しなかったが,輻輳運動の左右眼の対称性は回復した。この結果,正常の対称性輻輳運動にPMLS野尾側部が必要なこと,この機能は他の分野により代償されうることが示された。前者は脳内刺激によりPMLS野吻側部から左右非対称,尾側部から左右対称の輻輳運動が誘発されることと一致した。2.1)視標接近中にPMLS野の尾側輻輳運動領域に対し脳内微小刺激を繰り返し与えた(55試行,20分間)。その後,数時間-1日にわたり,視覚刺激単独で誘発される輻輳運動の振幅・ピーク速度が有意に増加した。(2)輻輳運動増強を確認後,PMLS皮質の当該領域にグルタミン酢非NMDA型受容体遮断薬(CNQX)を局所注入した。注入後,約4時間の間,輻輳運動の増強は抑制され,その後次第に通常の増強レベルに戻った。この結果はLS皮質輻輳運動領域への視覚性入力が遮断されたためと考えられた。(3)グルタミン酸NMDA型受容体遮断薬(D-AP5)を局所注入し,30-60分後に視覚・脳内組み合せ刺激を行うと,輻輳運動の長期的増強は誘発されなかった。注入の前々日,及び翌々日に行なった遮断薬注入なしの対照実験では増強がみられた。この結果は視覚・脳内組み合せ刺激による輻輳運動増強に,LS皮質内の神経回路が関与することを示唆する。3.以上の結果は,大脳LS皮質の異なる微小分野が近見反応の制御に異なる役割を果たすという従来の研究で得られた仮説を支持する。
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