研究概要 |
私たちは以前にGATA因子がファミリーを形成していることを明らかにしたが,本研究ではGATA‐1発現が赤血球・巨核球系の分化形質と強く相関するのに対して,GATA‐2発現はさらに未分化な造血細胞にみられることを見出した.この結果は,GATA‐2が造血前駆細胞において機能しているのに対して,GATA‐1はすでに分化がある程度進んだ細胞での形質発現に貢献していることを示唆しており,転写因子群の機能分担を考察するうえで興味深い. NF‐E2を構成する一つのサブユニットであるp45のcDNAクローン化が最近報告され,p45は塩基性領域/ロイシンジッパー構造を持っており,もう一つのサブユニット(p18)とヘテロ二量体を形成してNF‐E2活性を示すことが提唱された.私たちは西澤誠博士と協力して,p18の本体は核内癌遺伝子Mafの関連遺伝子である小Maf群蛋白質であることを発見した.小Mafホモ二量体はNF‐E2配列を介して負の転写抑制を行うのに対して,P45が同時に細胞内に存在してヘテロ二量体を形成するとその分子は同じ配列を通して転写活性化に働く.NF‐E2配列を通して転写活性化と抑制はMafとp45との濃度平衡の変化に応じて行われており,このことから新しい転写制御様式が存在することが強く示唆される.最近,p45はショウジョウバエCNC因子と相同性を持った因子からなるファミリーを構成していることが明らかにされた.このことからNF‐E2は異なるサブユニットの解離・会合を通して多様な遺伝子発現制御を創り出してしることが理解される.造血幹細胞は多様な細胞系列へ分化するが,それぞれの細胞系列の確立の際に転写因子群が重要な貢献をしていることは疑いない.私たちは赤血球特異的な遺伝子発現調節機構の解析を通して血液細胞分化過程の理解を試みているが,それはまた細胞分化機構一般の分子的基盤の理解を進めるものであると思われる.
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