研究概要 |
前口動物の3門(節足,環形および袋形動物),4綱(倍脚,多毛,貧毛,ヒルおよび線虫綱)に属する動物の糖脂質を調べ,それらより構造特異性を有する多数の新型糖脂質の存在を報告してきた。その中でも最大の発見は,環形動物,多毛綱および袋形動物,線虫綱に酸性糖脂質としてイノシトールリン酸を含有する新型のリン糖脂質が存在することを明らかにしたことである。既に,それらのうちのいくつかについては化学構造を決定しており,糖脂質糖鎖の新しい領域を開発することができたと言える。 環形動物(Annelida)は,動物系統分類学の上から節足動物(Arthropoda)と軟体動物(Mollusca)の中間に位置するとされ,現在,原始環虫綱,貧毛綱,多毛綱,ヒル綱およびユムシ綱の5綱に分類されている。これらの中で,我々は既に,貧毛綱および多毛綱の糖脂質を調べ,中性糖脂質の主な構造はneogala系列(Galβ1-6Gal)であること,また,両綱共に新型のホスホコリンを含有する両性イオン型糖脂質が多量に存在することを明らかにし,それらの化学構造をcholinephosphate(→6)Galβ1-Cerおよびcholinephosphate(→6)Galβ1-6Galβ1-Cerと決定している。このように環形動物の糖脂質には,他の前口動物由来のそれらと比べて,極めて特色のある化学構造を有するものが含まれていることから,糖脂質の特異な領域を成していると考えられる。 本研究では,海産多毛綱に属するイトメ,Tylorhynchus heterochaetusの酸性糖脂質画分の検索を行い,その主要酸性糖脂質がイノシトールリン酸を含むものであることを明らかにすると共に,それらのうち2種類の完全構造を決定した。今までに,植物,菌類などにフィトグリコリピドとして報告され,それらのうちいくつかは化学構造が決定されている。しかし,今のところ,我々の知る限りでは,動物界でそれらに類するものが見いだされた例はなく今回が初めてである。
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