ヒト食道扁平上皮癌培養細胞株ES-2及び、ヒト大腸癌培養細胞株HCT116をSodium Butyrateを用いてin vitroで分化誘導した。この分化現象におけるガングリオシド変化を解析したところ、両方の細胞株で共通してneolacto系ガングリオシドの経時的減少及び、ganglio系ガングリオシド、特にG_<M3>の顕著な増加が観察された。次に、ガングリオシド生合成に影響を及ぼす各種薬剤を用いて、ヒト培養上皮性悪性腫瘍細胞株におけるガングリオシド発現の人為的制御、特にneolacto系カングリオシドの発現抑制による分化誘導の可能性を検討した。neolacto系糖脂質のde novo合成を阻害し、G_<M3>を増加させる活性が報告されているBrefeldin A(BFA)でES-2及び、HCT116細胞を処理したところ、いずれも増殖抑制とともに、核の凝集、細胞の球状化などの明瞭な形態学的変化を示した。ES-2は、成熟扁平上皮のマーカーである。involucrinの発現が誘導された。BFA処理3日後に、apoptosisの指標のひとつであるDNA ladderが認められた。BFA処理細胞のガングリオシドを分析したところいずれの細胞でも、長糖鎖neolacto系ガングリオシドの抑制及び、G_<M3>の顕著な増加が観察された。この変化は、ガングリオシドのde novo合成の分析でも認められた。以上の結果から、長糖鎖neolacto系ガングリオシド合成の抑制及びG_<M3>合成の顕著な亢進がヒト上皮性悪性腫瘍細胞株の分化誘導に必須である(分化を推進している)可能性が示唆された。
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