研究概要 |
マウスの突然変異遺伝子ter(teratoma)は、雌雄の生殖細胞を欠損させ、129/Sv-ter系統においては、始原生殖細胞に起源する精巣性テラトーマを高率に発症させるが(Noguchi and Noguchi,1985)、ter遺伝子を他の系統に導入したterコンジェニック系統では、生殖細胞を欠いた矮小生殖巣を形成させる。報告者等はこれらのマウスを用いて、ter遺伝子座は第18番染色体のGrl-1遺伝子座の極近傍に位置すること、各ter遺伝子型を、Grl-1のミニサテライトDNAのPCR多型で判定できること(Sakurai,et al,1994)を明らかにした。そこで、この方法でコンジェニック系統の胎仔のter/ter、ter/+及び+/+型を判定し、ter遺伝子の機能を明らかにするために、ter/ter胎仔精巣で見られる生殖細胞欠損は、1。始原生殖細胞の出現期から起きるのか、2。生殖細胞と生殖巣体細胞のアポートシス(プログラムされた細胞死)に依るのか、3。生殖細胞あるいは、精巣体細胞のいずれに起因するのかを、免疫組織化学的及び発生工学的に解析し、次の成果を得た。 1。ter遺伝子は、始原生殖細胞の出現期(7.5日胚)には影響しないが、移動および増殖の開始時期(8.0日胚)からその欠損を引き起こした(印刷中)。2。胎仔精巣において、モノクローナル抗体4C9染色で生殖細胞を識別し、TUNEL染色でアポトーシス核を検出した結果、ter/ter精巣の生殖細胞にアポトーシスによる細胞死が起き、その後、一部の体細胞にもアポトーシスがおきることが示された。3。ter/+及び+/+型胎仔精巣の生殖細胞を同遺伝子型或いは、ter/ter型体細胞と組み合わせた再構成精巣を作った結果、後者の組み合わせの場合、生殖細胞は分裂周期の特定の時期に死滅した。従って、ter遺伝子は少なくとも体細胞に作用し、その結果、生殖細胞の増殖及び生存に障害を及ぼすことが判明した。
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