筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、今日までその原因が充分には明らかにされていない進行性難治性筋疾患で、主として運動ニューロンの選択的細胞死を惹起して筋萎縮をもたらし、その予後が極めて不良でありながら有効な治療法は未だ確立していない。ALS発症者の5‐10%は遺伝性で(FALS)、何らかの遺伝子異常によって発症すると考えられている。近年、白人大家系の研究により一部のFALSの責任遺伝子座が第21染色体長腕に存在することが明らかにされ、また1993年には細胞質内の活性酸素消去機構であるCu/ZnSOD(superoxide dismutase)遺伝子に点突然変異が見い出されてきて、これが一部のFALSの原因遺伝子であることが強く推定されるに至った。 すでに以前の研究により日本人の家系を用いた予備的な研究によって2家系のCu/ZnSOD遺伝子に、これまで検討された150以上の白人家系でも見られていない症状の進行が極めて遅いなどの際立った臨床的特徴を持った新しい遺伝子変異(点突然変異)を見い出して報告している(H46R変異)。さらに本年度の本研究により、もう3家系においても、白人家系にはまだ報告のないCu/ZnSOD遺伝子の3つの異なった異常を見い出した。異なった遺伝子変異は、それぞれに特徴的な臨床所見を示しており遺伝子変異と臨床的特徴の関連が注目され、遺伝子異常による運動ニューロン死のメカニズム解明の足掛かりとなった。
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