研究概要 |
本研究は当初、大腸菌リボヌクレアーゼHIにより1箇所のみで切断される核酸アナログであるr(GGAGAUGAC)・G_mU_mC_md(ATCT)C_mC_m(duplex1;G_m,U_m,C_mは2'-O-メチルリボヌクレオシド)とd(GG)r(AGAU)d(GAC)・d(GTCATCTCC)(duplex2)の溶液中での構造をNMRにより解析し、両者のDNA・RNA hybrid部分の構造を比較することによってリボヌクレアーゼHの基質認識機構を解明することを目的としていたが、duplex1のNOESYスペクトルを測定したところシグナルの重なりが何箇所にも見られ、シグナルの完全な帰属は不可能であったので、まずduplex2のNOESY,DQF-COSY,E-COSYの各スペクトルを測定し、シグナル帰属後、NOEから得られた距離を用いたrestrained molecular dynamicsにより立体構造を出した。A型およびB型を初期構造として最適化を行い、relaxation matrix refinementにより最終的にRMSDが0.7Å未満の構造を得たが、duplex2は均一な構造ではなく、DNA・RNA hybrid部分とDNA duplex部分で異なる構造を有していた。そこで、RNA部分を3'方向に移したd(GGAGA)r(UGAC)・d(GTCATCTCC)(duplex3)についても同様にスペクトル測定、シグナル帰属、構造計算を行なった。duplex2と3の構造を比較すると、いずれの構造にも共通の特徴的な構造変化が観察された。DNA・RNA hybrid部分でminor grooveが広がっており(A型に近い)、duplex2の方が3よりも全体的に広くなっていた。糖のパッカリングを擬回転位相角で表わすと、リボ残基の糖はA型に近くデオキシ残基の糖はB型あるいはA型とB型の中間の値を示した。E-COSYスペクトルにおいて得られた結合定数(J_<1'-2'>,J_<1'-2''>)は、一般的にデオキシ残基では大きくリボ残基では非常に小さかったが、NOESYより得られた構造とは必ずしも一致しなかった。また、duplex2と3に共通する特徴は、DNA-RNAの結合部分でデオキシヌクレオシドのH-2'とH-2''のchemical shiftが一致することと、この部分のリボヌクレオシドのJ_<1'-2'>値が異常に大きい点であった。
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