研究概要 |
チロシンキナーゼは一般に細胞の増殖分化に直接的に関わっていると考えられている。我々が単離した新規チロシンキナーゼTecは血液細胞において高発現しており、特に骨髄球系においては最も豊富な非受容体型チロシンキナーゼである。従って骨髄球系細胞の増殖機構においてTecが重要な役割を担うことが予想される。本研究計画においては我々は、骨髄球系細胞に働くサイトカインの細胞内シグナル伝達機構におけるTecの関与を検討した。(1)Tecのサイトカインによる活性化:マウスIL-3依存性細胞株BaF3にc-Kit,Flt3/Flk2,gp130,G-CSF受容体cDNAをそれぞれ導入し安定導入株を得た。これらの細胞は導入受容体のリガンド依存性に増殖することができた。親株を含めたこれらの細胞をそれぞれIL-3,stem cell factor,Flt3/Flk2 ligand,IL-6+IL-6receptor alpha chain soluble form,G-CSFで刺激するといずれの系においてもTecは刺激依存性にチロシンリン酸化することが判った。また少なくともc-Kit,Flt3/Flk2,gp130とはTecが細胞内で会合することが示された。しかも正常マウスの骨髄よりc-Kit-positive,lineage markers-negativeの単核細胞を分離しIL-6+Flt3/Flk2 ligand存在下で培養する際、Tecに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与しTec発現量を低下させると、造血前駆細胞の増殖は抑えられた。以上よりTecは造血前駆細胞の増殖に必須なキナーゼと考えられ、Tecと相互作用を及ぼす細胞内蛋白質を明らかにすることによって、細胞増殖機構に関する新たな視点からの知見が得られると予想される。
|