研究概要 |
我々は平成5年度のがん特別研究(2)において、ラット線維芽細胞株Rat-1A細胞のΔFosBの発現によるトランスフォーメーションに伴い細胞増殖の制御に重要なサイクリンとサイクリン依存性キナーゼのmRNA量が増加することを見出した。しかしながら,Nuclear Run On法による転写頻度の解析からcaK2,サイクリンE遺伝子の転写頻度はΔFosBの発現に伴って増加しないことが確認された。この結果は、ΔFosBが転写後の段階でこのような細胞増殖に必須な遺伝子の発現を制御する可能性を示唆する。本年度は、ΔFosBによるCdk2,サイクリンEの転写後の発現制御機構の解明を目視した。また,FosBの発現によりトランスフォームしたRat-1a細胞でのサイクリン及びサイクリン依存性キナーゼの発現を検討し,発現に変化の見られた遺伝子についてその発現制御のメカニズムを明らかにすることを目的として以下の研究を行った。(1)ΔFosB発現細胞におけるサイクリンE,Cdk2 mRNAの安定化:ΔFosBの強制発現により増殖している細胞とΔFosBを発現していない休止期の細胞をアクチノマシンで処理しdenovoのRNA合成を阻害した後,時間を追ってtotal RNAを調製しサイクリンEとCdk2のmRNA残存量を測定した。その結果,2つのmRNAともにΔFosB非発現細胞では速やかに分解され,そのレベルが低く維持されることが明らかになった。一方、ΔFosB発現細胞では2つのmRNAとも分解速度が低下し,安定化されていた。この安定化がそれぞれのmRNAレベルの増加の原因と考えられた。(2)FosB発現細胞における細胞増殖制御遺伝子群の発現:サイクリンEとCdk-2のmRNA量をFosB発現細胞においてノーザンブロッッテイングにより解析したところ,サイクリンEの発現増加のみが観察された。(3)FosBによるサイクリンEの転写制御:FosB発現細胞におけるサイクリンEの転写レベルをNvclear Run Onアッセイにより解析したところ,休止期の細胞やΔFosBの発現細胞により有意に転写レベルが増加していることが確認され,FosBは転写の活性化によりサイクリンE遺伝子の発現を誘導するようである。以上より,ΔFosBの発現によって細胞がトランスフォームする際には,mRNAの安定化によってサイクリンEとそのパートナーCdk2の発現が誘導され,細胞増殖が活性化されることが明らかにされた。一方,FosBの発現によっては,サイクリンEの転写増殖mRNAレベルの増加が観察された。このことは,fosB遺伝子が2つの遺伝子産物によりそれぞれ異なる経路で細胞の増殖,がん化に関わっている可能性を示すものである。
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