マウス培養細胞FM3Aを無機リン酸で標識後、抗ヒトE1抗体で抽出液中からE1酵素を沈降精製して調べ、リン酸化されていることを確認した。同じ細胞からユビキチンカラムを用いて精製したE1酵素を用い、抗マウスCdc2抗体で精製したCdc2 kinaseとγ-32P-ATPで反応させたところ、ヒストンH1と同じレベルでリン酸化された。トリプシン分解物のペプチドマッピングの結果、いずれも同じ部位2箇所でのリン酸化であり、このうちの一つはN末端から4番目のSer残基であることが証明された。この部位のリン酸化は細胞周期のG2/M期に最大となり、FM3ACdc2温度感受性変異株においては抑制されたことから、細胞内でCdc2 kinase(MPF)により周期依存的にリン酸化されていることが分かる。このリン酸化がいかなる生物学的機能を代表するものかはまだ憶測の行を出ていない。しかし、このリン酸化部位の数残基後にKKRR配列が存在し、これが核移行シグナルとなっている可能性がある。核移行シグナルの近くには多くの場合リン酸化部位が供役していると言われる。従って細胞周期依存的に核へのE1の移行に関わっている可能性がある。実際、G2期にかなりの量のE1が核に局在するとの報告がある。また核に局在後に特定のE2の認識機構に関わることも考えられる。他の一箇所のリン酸化は、in vitroではCdc2 kinaseでリン酸化されるにもかかわらず、細胞内ではG1/S期に主にリン酸化されていることから、Cdk2または類縁のkinaseによる可能性が極めて高いと思われる。いづれにしてもこれらのことは、cdkによる細胞周期制御系とユビキチン蛋白質分解系が細胞増殖制御のネットワークの中で相互にリンクしていることを意味しており、具体的にはcdkリン酸化酵素でユビキチン系の最初に位置するE1酵素がリン酸化されることにより、特定のE2酵素の認識を介して周期特異的なユビキチン経路を発現させることにつながるのではないかと考えている。
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