研究課題
特定領域研究(A)
今年度は、発ガンの本体である足場非依存性細胞周期開始の機構と、ガンの進行原動力とされている染色体の不安定化に深く関わる姉妹染色体の結合形成に必須な分裂酵母の2種類の新規遺伝子(eso1^+,abs1^+)の機能の解明を進めた。2つの増殖因子によって可逆的にガン化するラット繊維芽細胞への特異抗体の微量注入実験から、発ガン刺激によってCdk6キナーゼが細胞周期の開始に使われはじめることが明らかになった。さらに、Cdk6の細胞開始への使用が、キナーゼ自身の活性制御や細胞内局在の制御によるのではないことが、Cdk6の高発現株の解析からも判明した。元来足場非依存性細胞周期開始を行う造血系細胞ではCdk6が主に使われていることから、この細胞で見られた発ガン刺激による足場非依存性細胞周期開始が造血系細胞と同じ機構でおこっている可能性が示唆された。ガン進行の原動力とされる染色体の不安定化は、姉妹染色体の結合不全でも誘発される。分裂酵母から新規に同定したeso1^+は、ピリミジン2量体を乗り越えてDNA合成ができるpolηとS期で複製された姉妹染色体同士の結合形成を行う蛋白質との融合蛋白をコードし、複製フォークの構成因子としてDNA複製進行と共にこの2つの異なった反応を触媒することが判明した。abs1^+は、eso1^+と相互作用する遺伝子として単離されたもので、abs1^+を欠損させるとeso1^+がなくても姉妹染色体同士の結合形成が可能となる一方で、姉妹染色体同士の結合が極めて不安定になることから、この遺伝子によってコードされる蛋白は、姉妹染色体同士の結合を安定化するのみならずおそらく姉妹染色体以外の染色体同士の結合を防ぐ役割をも果たしているものと考えられた。
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