研究課題
特定領域研究(A)
細胞の増殖・分化を制御する情報伝達機構の解析は、発癌の分子機構解明に大きく寄与することが期待される。細胞の増殖・分化制御に必須の情報伝達経路の一つとして、MAPキナーゼ(MAPK)カスケードが知られている。酵母の系を利用して分離されたTAK1はMAPKKKファミリーに属し、動物細胞においてTGF-betaやIL-1等のシグナル伝達経路で機能することを明らかにしてきた。真核細胞の増殖・分化調節機構は、酵母、線虫、ショウジョウバエからヒトに至るまで保存されている。そこで、線虫をモデル動物として、TAK1の個体レベルでの機能を明らかにする目的で、線虫におけるTAK1ホモログtlk-1を分離し解析を行った。その結果、線虫のTAK1ホモログはLIT-1というMAPK様キナーゼを介して、Wntシグナル伝達系に関与していることが明らかになった。動物細胞においては、細胞外からのWntシグナルに応答して、beta-cateninが転写因子TCFと複合体を形成してDNA上の応答配列に結合し、標的遺伝子の転写を活性化する。さらに、このWntシグナル伝達系は、癌化と関連している。線虫で得られた解析から、動物細胞のWntシグナル伝達系においても、TAK1及びNLK(動物細胞のLIT-1ホモログ)が関与する可能性が考えられる。解析の結果、TAK1がNLKのキナーゼ活性を活性化すること、NLKがTCFをリン酸化すること、さらに、NLKによるTCFのリン酸化の結果、beta-catenin-TCF複合体のDNA結合活性が低下し、標的遺伝子の転写が不活性化されることが明らかとなった。このように、動物細胞においてもTAK1-NLKキナーゼカスケードが、Wntシグナル伝達系に関与することが明らかになった。
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