研究概要 |
A Wemerが配位説を発表してから約100年が経過した。以来,いわゆるWemer型錯体の化学は,配位化学として無機化学の中で重要な位置を占めている。一方、19世紀前半に発見された金属一炭素結合を持つ化合物,すなわち有機金属化合物は時の経過と共にその例を増し,有機金属化学としてその体系をととのえた。しかしながら,従来の配位化学,有機金属化学のどれにも属さないがこれらと密接に関係する膨大な化合物群の化学がある。すなわち,金属と炭素を除く非金属元素との間に結合を持つ化合物の化学である。そこで,本研究者代表者は無機金属化学(Inorganometallic Chemistry)を提案し,均衡のとれた化学の展開を目指すべき時期が到来したと考えた。上の定義によれば,配位化合物も無機金属化合物に含まれてしまう。しかし,無機金属化学は配位化学が発展していたときには知られていなかった,あるいは思いも及ばなかった新しい型の結合様式や複雑な構成を持つ化合物の化学に力点を置くことにした。なぜなら,古典的なWemer型錯体ではなく,現代化学の中心的役割を担う化合物の化学として,無機金属化学を捉えたかったからである。 本総合研究(B)は,現在考え得る最適任と言ってよい15名の研究者で組織した。各研究者によって取り上げられている化合物は極めて多彩で,金属とすべての族の非金属元素(13族〜17族元素)との間に結合を持つ化合物が含まれている。すなわち,非金属元素としては,13族(B),14族(Si,Ge),15族(O,S,Se),16族(N,P),17族(F,Cl)が含まれている。また,これら無機金属化合物と各種基質との間での物質変換反応や電子移動反応が取り上げられているほか,金属タンパク質やスーパーオキシドディスムターゼなどを無機金属化学の立場から研究したものもある。いずれも無機金属化学の将来の大きな発展を確信させるものである。
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