研究概要 |
常緑性ツツジの園芸品種の起源を明らかにするために,その起源地ではないかとされている九州霧島山系のツツジの野生集団を対象とした.標高1,000m以上の山頂域には,草高の低い,小さな楕円形の葉と小さな赤紫色の花を付けるミヤマキリシマが,標高800m以下の山麓域には草高の高い,大きな長楕円形の葉を付け,ブロッチのある大きな朱赤色の花を付けるヤマツツジが分布している.その中間域(標高800〜1,000m)には,形態的には両種の中間で,花色の多様な集団があり,自然雑種であろうとされている. 本研究では,山頂域から山麓域にかけての集団について,個体別に形態的形質とDNA多型を調査した.ミヤマキリシマとヤマツツジを明確に区別できる核DNAマーカーは得られなかったが,葉緑体DNAの特定領域(16S rDNA)をPCRで増幅し,制限酵素Hha1で切断した断片長に多型が見られた.ミヤマキリシマでは1080bp/420bpの2本のバンドが,ヤマツツジでは950bp/420bp/80bpの3本のバンドが得られ,両種を区別するマーカーとして利用した.これによると,中間域の個体は,両種の中間的な形態を示すものが多いが,葉緑体DNAのマーカーは,両種のいずれかの型をもつものが混在していた.このことは,何時の時期かに両種が相互の交配し,その後,何度か反復して交雑が起こり,中間域の自然集団には両種の間で互いに遺伝子移入がおこったためと考えられる. このことを九州の雲仙,久住,阿蘇等の自然集団についても調査した.調査個体数は十分ではなかったが,形態形質と葉緑素DNAマーカーについて調べた結果,阿蘇の集団以外は,霧島山系の結果とよく一致した.ただし,阿蘇山の山頂付近の集団は,形態的にはミヤマキリシマであったが,葉緑体DNAはヤマツツジ型であった.阿蘇のミヤマキリシマの起源を考える上で貴重な知見であろう.一方,常緑性の園芸つつじ品種について調べた結果,形態的にミヤマキリシマまたは雑種性のものでも,ミヤマキリシマ型ばかりでなくヤマツツジ型の葉緑素DNAをもっているものもあったことから,「江戸キリシマ」や「クルメツツジ」等の園芸品種の起源は,従来,言われてきたように九州各地の自然雑種集団であろうと推定される.今後,細胞質遺伝子のみならず核遺伝子のマーカーについての知見を蓄積していけば,それぞれの由来を明らかにできるのではないかと考えられる.
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