研究概要 |
本研究は,これまで比較的隔離されてきた山村ならびに離島の漁村において,およそ昭和の初期から現在まで,人々の生活を支えてきた生業の変遷を個人の歴史ならびに個人の生業活動の視点から描き出すこと,そして生業と社会経済情勢の変容の流れのなかで社会原理としての平等性が個人と共同体の共存原理としてはたしてきた役割を検証した。 資料収集のための現地調査を兵庫県佐用郡佐用町海内ならびに,沖縄県島尻郡知念村久高島においておこなった。兵庫県海内においては,イノシシやシカなどを対象とした狩猟や炭焼き,コンニャク栽培などの生業を通して今日まで深く自然とかかわってきた人々の自然観や自然利用について調べ,平等意識の変化について調査した。 沖縄県の小離島である久高においては,社会・経済的変動にともなう沿岸漁業の時代的変遷とそのプロセスにおける人々の生き方の選択を調べ,競争と個人主義が共同漁と平等性の追及にとってかわる過程を調べた。また沿岸における海浜採集などにも時代の要因が大きく作用し,自然利用の変容をもたらしてきたことを明らかにした。一方,畑作を中心とした陸上の土地利用のあり方とその変遷を調査し,地割り制度などの社会慣行が土地利用の平等性につよく関わっている点について調べた。 かつて山村や小離島という限られた社会・経済的および自然的環境のもとで人々の生活の基本を支えてきた社会原理としての平等性は,経済や技術の発展にともなう生業構造の変容にともない急速に変容している。しかしながら平等性に代わるものはいまだに不明瞭であることも明らかになった。今後,ますます変動の度合いを強める社会状況において,どのような形で平等性が存続し,機能してゆくか注意深く見きわめていく必要がある。
|