研究概要 |
パルスNd:YAGレーザーの基本波(波長1064nm)の第3高調波(波長355nm)、第4高調波(266nm)を励起光源とする紫外レーザー励起ラマン分光システムを構築した。分光計は紫外用小型分光器とシングル・ポリクロメーターを組み合わせて構築した。テスト・サンプルとしてNi(111)面上のニトロベンゼンのラマン散乱を測定した結果、2分子層(露出量11L)以上の吸着量でニトロベンゼンのラマン散乱が観測できた。観測できたラマン・ピークはNO_2対称伸縮振動(1346cm^<-1>)とベンゼン環のC=C伸縮振動(1590cm^<-1>)であった。このときの測定条件は以下のとおりである: 励起条件:波長266nm,p偏光,入射角70°,試料上での照射密度-20mW/cm^2 観測条件:偏光解析なし,観測角60°,積算時間160分 また、紫外光照射によるニトロベンゼン分子の損傷を避けるために10分毎に励起光の照射位置を変えた。 〜0.6mW(〜20mW/cm^2×0.03cm^2(有効採光面積))という非常に弱い励起条件で2分子層からのラマン散乱を観測することができた。これは紫外光を励起源とすることによってニトロベンゼン分子のラマン散乱断面積が増大していることを意味している。488nm励起に対する266nm励起の液体ニトロベンゼンのラマン散乱断面積の増大を実験的に見積もったところ、ω^4則と共鳴効果の重畳により約5000倍増大していることがわかった。このラマン散乱断面積の増大はラマン散乱を紫外光で励起することの有用性を示している。 しかしながら、約5000倍という増強因子を得ながら、単一分子層のラマン散乱が観測できなかった。これはNi表面と吸着分子の損傷によって励起光強度の上限が制限されるためで、紫外光励起表面ラマン分光法の欠点である。
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