研究概要 |
地球の表層での物質循環に大きな役割を果たしていると考えられる様々な有機物と無機物の相互作用の機構と速度を明らかにするため,低温でのいくつかの代表的な有機無機相互作用の実験的研究を行い,また反応中間生成物の化学形態を現代的な分光学的手法等によってその場観測する試みを行った.まず,黄鉄鉱,水酸化鉄,アモルファスシリカ,珪酸ガラスの溶解・沈澱実験を有機物の存在しない条件下で,あるいは存在下で予備的に,常温から180℃程度の温度範囲で行った. 黄鉄鉱の120℃での沈澱実験では,S/Fe比が約1の非晶質細粒物質がまず迅速に沈澱し,ここから球状の黄鉄鉱がゆっくり生成していくことがわかった.現在ラマン分光計で非晶質細粒物質の化学形態を分析中である.水酸化鉄については,針鉄鉱の低温での生成速度を可視光スペクトル(色)から見積ることに成功した.また,鉄とシリカの共沈実験を行い,従来鉄だけの系と異なる針鉄鉱や赤鉄鉱の生成条件を得た.アモルファスシリカの脱水・熟成実験では,純水よりも脂肪酸,単糖,OHを持つアミノ酸の順にシリカの熟成を促進することが赤外スペクトルからわかった.珪酸ガラスの溶解実験では,様々な塩化物溶液による溶解の他,モノカルボン酸及びジカルボン酸等の溶液による溶解実験を行い,主に,顕微赤外分光法でガラス表面の水和層の評価を行っている. 一方,天然の物質系の中に有機無機複合体を探す試みも開始し,深海底堆積物中の珪藻の一粒の顕微赤外スペクトルから,含水シリカとペプチドの共存を確認した.また,チャート研磨片表面のラマン・スペクトルによりグラファイト様有機物を検出することに成功した. 今後,このような研究を系統的に継続し,反応中間生成物,反応機構,速度,平衡定数等を測定し,従来仮想的定性的なモデルしか存在しなかった地球表層での有機無機相互作用のいくつかについて,これらがどのような地球化学的な環境において重要な物質循環過程となるかを質的かつ量的に判断する研究手法を確立する.
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