研究概要 |
最近,透過電子顕微鏡(TEM)や走査トンネル顕微鏡(STM)の技術進歩はめざましく,これらの高分解能顕微鏡により結晶の原子配列を直接観測することができるようになり,転位や格子間隔の拡縮や超格子歪みなどの結晶中の空間配列の乱れの分布の精密測定への期待が高まってきている.このような背景のもとで,本研究は,我々がこれまで光応用計測の分野において開発してきた画像処理技術を原子スケールの顕微鏡像の解析に応用したものであり,その具体的な内容は以下の通りである. 1.結晶格子歪みの空間周波数ヘテロダイン検出法の考案 原子配列に乱れのある結晶の疑似周期的な格子像の歪の形状と,波面に乱れを持つ光波にティルトを与えて干渉させた時に生じる位相変調された空間キャリア干渉縞の歪の形状との間の類似性に着目し,TEMやSTMにより得られる原子配列像を空間キャリア周波数をもつ干渉縞とみなして空間周波数ヘテロダイン検出することにより,非常に高い分解能で精密計測する方法の基本原理を考案した. 2.フーリェ変換縞解析法による格子歪分布計測の原理の有効性の検証 我々が光波の干渉縞解析のために開発したフーリェ変換縞解析法が結晶格子歪の空間周波数ヘテロダイン検出のための具体的手段として有効であることをシミュレーションと実験により検証した. 1.1 計算機シミュレーションにより作成した既知の結晶格子像を用いた精度の確認 計算機内部で既知の格子歪分布値をもつ種々の結晶格子像を数値的に作成し,それらを空間キャリア干渉縞と見なしてフーリェ変換法により原子の基準位置からの変位分布を求め,数値的に与えた既知の変位分布と比較することにより格子間隔の1/30以下の格子歪の検出の可能性を確認した. 1.2 実際の結晶を対象とした転位や格子間隔の拡縮などの計測実験 シリコン(Si)や金(Au)の結晶の刃状転位のように格子の歪分布がの概形が知られている試料のTEM像を対象に実験をおこない格子の微小変位分布の検出することにより原理の有効性を実証した.
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