研究概要 |
強磁性元素であるCoと非磁性元素であるPtとを選び,多層膜の基礎となるPt単層膜およびPt/Co多層膜を,分子線蒸着法をもちいて,Si(111)基板上に成長させ,エピタクシアル成長に必要とされるSi基板の状態,結晶成長の様子,薄膜の構造と表面トポグラフ,Cuバッファ層の役割について,更に,薄膜の界面構造をナノスケールで調べ,電子物性との関連を考察した. Pt単層膜の研究では,薄膜/基板界面と薄膜内部構造を,走査型トンネル顕微鏡,原子間力顕微鏡,透過型電子顕微鏡を用いて調べた結果,清浄なSi(111)基板上にバッファ層としてCuを積層すると,Cu/Si界面にはCu珪化物が均一に生成してCuがエピタクシアル成長した.その上のPt薄膜もエピタクシアル成長した.Pt膜は,膜厚方向にみると単結晶であり,膜面内方向にみるとピンホールが存在せず,そのため,Pt/Co多層膜の基板として用いるのに良好であった. 更に,上記の単層膜研究で得られた知見を基に作成したPt/Co多層膜の研究では,Pt/Co多層膜はPtシ-ド層の上でエピタクシャル成長し,Si,Cu,Pt,Coの間に一定の結晶方位関係を保った.Pt/Co多層膜は,Ptシ-ド層の上で柱状に成長するが,Ptシ-ド層とは異なり,柱状晶の界面は晶相を示さない.更に,Pt/Co多層膜が結晶成長する際は,Pt上のCoもCo上のPtも類似構造成長を行い,得られたPt/Co多層膜には弾性歪みが存在する.Pt/Co多層膜は良好な多層構造を示し,磁気特性は垂直磁気異方性を示す. Pt系金属薄膜・多層膜の電子物性についての研究は,多層膜の電気輸送現象を電気回路模型によって定量的に取り扱うことを提唱し,電気伝導に及ぼす表面・界面の影響について明らかにした.Pt膜の電気伝導度に与える表面トポグラフの影響を,Fuchs-Sondheimerの理論と電気回路模型を用いて定量的に抽出した.また,Pt/Co多層膜の電気伝導度に与える界面の影響を電気回路模型を用いて定量的に抽出した.界面により生じた電気抵抗は,多層膜部の65%におよんだ.
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