研究概要 |
本研究は,鋼に匹敵する高強度・高じん性及び腐食環境下での使用を考慮した耐候性オーステンパ球状黒鉛鋳鉄製ボルトの開発・実用化を目的とする。また,Cu-Ni合金球状黒鉛鋳鉄のオーステンパ熱処理による最適熱処理条件を明らかにし,締結部材の信頼性確保において重要である各種の材料評価試験はもとより,耐腐食性環境下の特性向上についてミクロな構造・組織の立場から解析を進め,その実用化および用途開発を目指した。 研究実施計画に基づいて次の事項を遂行した。1)鉄系金属で耐腐食性の面から優れた特性を示す鋳鉄材料に,さらなる耐候性・熱処理性能の向上に興味が持たれるNi-Cu添加球状黒鉛鋳鉄及び実体構造締結ボルトの溶製を行った。2)オーステンパ熱処理による最適強化条件とその機構の解明を進めるため,計装化シャルピー衝撃試験および静的引張試験を行い,その強度および衝撃特性を評価した。3)疲労き裂進展抵抗試験を実施し,試験材の破壊挙動及びその特性評価を行った。4)硫酸鉄溶液中及び自然環境中及び自然環境中での大気暴露試験を行い,その耐腐食性の評価を実施した。 本研究の結果,Ni-Cu合金材は,熱処理によって顕著な衝撃特性を得た。強度とじん性の観点から623Kのオーステンパ処理は,吸収エネルギーが20Jにも達し,破壊に必要とする亀裂発生エネルギーが大きく,最大破壊荷重到達後にも緩やかな亀裂伝播過程を保持する極めて優れた高延性・高強度材料となった。オーステンパ処理材の公称応力拡大係数範囲(△K)は,き裂進展抵抗が大きく安定したき裂伝播の進展を示した。また,下限界応力拡大係数範囲(△Kth)は,オーステンパ熱処理で高い値を示したが,合金材では改善されなかった。Cu-Niの合金化は,屋外暴露試験及び硫酸鉄溶液中で,非合金材の2倍となる優れた耐食特性を得た。
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