研究概要 |
強誘電性高分子結晶の高次構造の制御はより強い圧電効果と新機能を持つ材料の開発に重要であり,また,結晶性高分子のより深い理解に役立つ.本研究ではフッ化ビニリデンと三フッ化エチレンの共重合体P(VDF/TrFE)およびPVDFを主な対象に結晶化,構造,分子鎖運動,圧電関連物性,圧電性の応用を研究し次の結果を得た. 1.P(VDF/TrFE)の延伸膜を常誘電相(六方晶相)で結晶化すると,単結晶状の膜が生成することを発見した.結晶c軸は延伸方向,結晶b軸は膜法線から±π/6,または膜面に平行に向く.この配向は膜の表面エネルギーの異方性による.膜は伸長鎖結晶からなり,ラメラ結晶も非晶部ももたない.高分子鎖の新しい存在形態といえる. 2.延伸した高分子を六方晶相で結晶化する方法をP(VDF/TrFE)とPMMAブレンド膜およびポリエチレン(PE)膜に適用した.いずれも完全伸長鎖結晶からなる膜を得た.ただしPEの六方晶相は高圧・高温で出現する.これらの膜は,P(VF/TrFE)単結晶状膜と同様に高結晶性にも係わらず,ラメラ結晶を含まず,透明である. 3.P(VDF/TrFE)単結晶状膜における分子鎖の運動をX線回折,誘電率,および複素弾性率から調べた.常誘電相では,分子鎖は極めて長距離秩序性のある六方晶格子に固定された円筒中で分子鎖方向に液体的に運動していること,分子鎖方向のずり弾性率C_<55>のソフト化が強誘電-常誘電相転移の原因であることが分かった. 4.高分子圧電膜のずり圧電効果の評価法を開発し,P(VDF/TrFE)単結晶状膜と延伸PVDF膜に適用した.これらの膜で横波超音波送受波子を開発した.極低温から120℃で,非破壊検査や音波物性測定が高感度でできた. 5.高圧下でのPVDFとP(VDF/TrFE)およびそのブレンドの圧力-温度相図を決定した.高圧六方晶相で結晶化することより,大きい電気機械結合係数をもつ(kt=0.27),200℃まで実用可能な圧電材料を得ることができた.
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