配分額 *注記 |
8,400千円 (直接経費: 8,400千円)
1996年度: 1,300千円 (直接経費: 1,300千円)
1995年度: 1,600千円 (直接経費: 1,600千円)
1994年度: 5,500千円 (直接経費: 5,500千円)
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研究概要 |
北極圏アラート、南極昭和基地で採取したエアロゾル試料中の有機物をキャピラリーガスクロマトグラフ・質量分析計を用いて解析した。カルボン酸などを分子レベルで解析した結果、極域エアロゾルの輸送と光化学的変質に関する有機地球化学的ダイナミックスについて以下のような像が得られた。 北極エアロゾル中には、シュウ酸を主成分とする低分子ジカルボン酸が豊富に存在し、これらの濃度は、太陽が昇る3月から4月にかけて5-10倍に増加することがわかった。この増加は、冬場に北極圏に大気輸送された人為起源の炭化水素などが太陽光にさらされることにより、急激に光化学反応が進行した結果と考察された。ジカルボン酸への酸化反応における中間体であるオキソ酸、グリオギザ-ルのピークは、ジカルボン酸のピークの2週間まえに現れ、太陽が昇る時期に一連の光化学的酸化反応が連鎖的に進行することが示唆された。植物由来の不飽和脂肪酸の光化学酸化生成物であるアゼライン酸(C9)の濃度は、3-4月には、相対的に低かったが、5月以降夏に向かって増加傾向を示した。これは、気温の上昇、海氷の後退によって、海洋から大気への海洋微生物起源の有機物の寄与が大きくなったことによると考えられた。 一方、南極エアロゾル中にも低分子ジカルボン酸が検出されたが、その分布は北極と異なりコハク酸が優位を示した。エアロゾル中の脂肪酸は,C16を極大に持つ偶数炭素優位性を示し、南極昭和基地の大気中の有機物は海洋生物からの寄与を強く受けているものと考えられた。また,不飽和脂肪酸(C16:1,C18:1)も検出されたが,それらは飽和脂肪酸に比べ低い濃度であり,大気中で光化学的に分解を受けたものと考えられた。一方,不飽和脂肪酸に特有な光化学的酸化生成物であるアゼライン酸(C9)は,主要なジカルボン酸として検出され、アゼライン酸が全炭素(TC)に占める割合は夏に高く冬に低い傾向を示した。本研究より,南極エアロゾルの化学組成は、海洋生物の影響を強く受けており、これらの有機エアロゾルは夏の時期に活発な光化学的酸化反応を受ける結果,ジカルボン酸を豊富に含む水溶性の粒子に変質していることが明らかとなった。
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