研究概要 |
本研究の目的は,X線などのイオン化放射線によって結晶固体中に誘起される重合反応が,どのような因子によって支配されるかを明らかにして,新しい固体高分子材料の開発に役立てることである。所定の研究期間内に以下の実績をあげた。 1.典型的なトポロジカル反応の例として知られている2,5-スチリルピラジン単結晶のピコ秒レーザーフォトリシスの実験結果から,単結晶中に不規則部分として存在するエキシマーサイトが2+2付加環化反応において重要な役割を果たしていることを明らかにした。パルスラジオリシス法による測定結果から同様のエキシマー生成を確認した。このことから,従来は起こらないとされていた放射線誘起の付加反応の可能性を予見し,実際に^<60>Coのガンマ線を照射することによりこれを確かめた。このようにして,光照射に比べてより均一性の高い結晶内部における重合反応を起こさせることに成功した。この最後の部分については,論文にまとめて平成9年3月13日にBulletin of Chemical Society of Japanに投稿した。 2.固体ポリエチレンのモデル化合物であるn-C_8H_<18>とn-C_<13>H_<28>の結晶中に放射線によって生成するラジカルの異性化反応をESRによって明らかにした。その結果,三斜晶系および斜方晶系の結晶中では,放射線照射によって分子の端に生じたラジカルは効率よく端から2番目のラジカルに熱的に変換されることがわかった。この結果から,固体ポリエチレンの結晶部分で起こる架橋反応を支配する重要な因子の1つが明かにされた。
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