研究概要 |
気相における原子分子衝突反応の遷移領域を探る分光法の開発を目指して、衝突で広がった水銀原子共鳴線:6^3P_1←6^1S_0 (253.7nm)の遠翼スペクトル帯を光励起する分光法を一連の衝突過程に適用し、次の成果を得た。 (1)衝突系:Hg-He, Hg-Ne, Hg-Ar, Hg-N_2, Hg-CO, Hg-H_2,及びHgD_2による光吸収スペクトルの絶対測定を水銀共鳴線の両遠翼で行った。即ち、二光路干渉法による分散スペクトルの解析から吸収セル中の水銀蒸気カラム密度を精密測定し、衝突準分子のA←X遷移およびB←X遷移に対する換算吸収係数の絶対値を励起光波数の関数として決定した。特にHg-Ar系については、遠翼吸収スペクトルが示す振動的なスペクトル構造の原因を理論的に解明し、van der Waals分子HgArに関する分光学的な情報と遠翼吸収スペクトルから得られる情報との詳細な比較を行った。 (2)遠翼吸収帯をパルスレーザーで励起する遠翼ポンプ・プローブ法に依って、N_2(或いはCO)との衝突による三重項水銀の微細構造間遷移:Hg^* (^3P_1)+N_2, CO→Hg^* (^3P_0)+N_2, COおよびH_2(或いはD_2, HD)との衝突による化学結合組み替え反応:Hg^* (^3P_1)+H_2, D_2, HD→HgH, HgD (X^2Σ^+,v, j)+H, Dを観測し、これらの衝突反応における遷移領域と遷移の動的機構とを詳細に検討した。この測定と(1)で得た吸収スペクトルから、遷移領域A, Bを経て各衝突過程の生成系へ至る失活確率をそれぞれ決定した。Hg^*-N_2, CO衝突での微細構造間遷移では、A状態からa状態への直接遷移が衝突最近接領域でコリオリ結合を介して起こる経路があることを明らかにした。水素分子との衝突によるHgH生成過程では、励起水銀のp電子がπ配向しているA状態を経由するほうが、σ配向が混っているB状態を経由するよりも3倍ほど反応確率が高くなること、反応の入口側にはポテンシャル障壁がないこと、反応生成種の振動・回転エネルギー分布には水素同位体の効果がないことを明らかにし、これらの結果から反応遷移状態の核配置について議論した。
|