研究概要 |
生体膜のリン脂質の遺伝子発現に及ぼす影響を,大腸菌について解析し,大要以下の結果を得た。 1.ホスファチジルグリセロリン酸シンターゼの構造遺伝子の塩基配列を確定し,欠損変異pgsA3の変異点を明らかにして酸性リン脂質合成能との関係を解析した。 2.pgsA3変異による鞭毛生成の低下及び運動性の消失が,鞭毛及び走化性に関わる約40の遺伝子群の階層的制御の頂点にある鞭毛マスターオペロンflhD-flhCの転写抑制によること,この抑制にはflhDコード領域上流の特定のDNA領域が関わることを見出した。 3.pgsA3変異は外膜のOmpF蛋白量も低下させることを見出し,この低下が構造遺伝子ompFの転写でなく翻訳の低下によること,micF遺伝子の転写がflhD-flhCとは逆に上昇することを発見した。 4.ホスファチジルエタノールアミンを消失させ,膜のリン脂質を酸性リン脂質のみとするホスファチジルセリンシンターゼの完全欠損変異株を構築し,これがpgsA3以上に強くflhDの転写を抑制するとともに,micF遺伝子の転写を昂進させることを示した。 5.細胞の諸機能には,個々のリン脂質種ではなく,適切な酸性リン脂質と両性リン脂質のバランスが重要であり,変異によるその乱れがリン脂質に特異的なストレスのシグナルを発生させ,環境変化に対応した制御を受ける遺伝子が,それぞれの制御機構に基づいた制御を受けるものと結論した。
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