研究概要 |
多様な植物から構成される植物群集の成立の機構を生理生態学的手法を用いて明らかにすることを目的に以下の研究を行った.(1)宮城県川渡ススキ草原において群落構造,光分布の調査を毎月行った.各種の地上部重量あたりの受光量として求めた光獲得効率は,生育初期の5月はオカトラノオなどの下層種が大きく,後期の9月は上層種であるススキが大きかった.下層種は生育期初期の良好な光条件を利用することにより共存を可能にしていることが示唆された.(2) C4植物であるイヌビエとC3植物であるイネを混植し,種間競争を物質生産の観点から定量的に記載することを試みた.イヌビエは遅く発芽してもイネの生産を大きく上まわり,イネの存在がイヌビエの光合成量に与える負の影響は数%にすぎなかったが,イヌビエが与える影響は数10%に達した.(3)群落内の個体の光合成量を求めるためのモデルを開発し,オオオナモミ純群落内の個体のサイズ不均一性が時間とともに拡大する要因を解析した.その結果,上に挙げた光獲得効率や,受光量あたりの光合成量として求めた光利用効率が上層種で高いことが大きな要因であることがわかった.(4)光合成系タンパク質分配が光合成量に与える影響をモデルにより理論的に評価した.光条件によって最適な分配が異なり,分配を変えることにより光合成効率が数10%も高められることを示唆した.モデルで予測された傾向は現実の傾向と一致した.(5)陽生植物シロザと陰生植物クワズイモを様々な光条件で生育させ,光合成系タンパク分配を比較した. (4)で作ったモデルを用いて評価した結果,両種とも広い範囲の光条件で最適に近いタンパク質分配を実現していることが明らかになった.
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