研究概要 |
本研究は,サツマイモ野生種における自家不和合性遺伝子(S遺伝子)の産物を明らかにすることを目的として,雌蘂で発現しているmRNAや蛋白質の分析を行なった.まず,サツマイモと同じ胞子体型自家不和合性を持つアブラナ科植物ではS遺伝子産物としてリセプターキナーゼ(SRK)が同定されていることから,SRK類似産物の検索を行なった.柱頭のcDNAライブラリーから得たIRK1クローンの解析から,サツマイモ野生種の雌蘂や雄蘂でもリセプターキナーゼが発現しているが,この酵素蛋白質はS遺伝子座の産物ではないことがRFLP分析から明らかになった.同様に,ナス科植物の自家不和合性に関与しているリボヌクレアーゼ(S.RNase)がサツマイモ野生種の自家不和合性にも関わっているかどうかを検証するため,柱頭cDNAクローンの解析を行なった.得られたRNaseクローンはナス科のRNaseと高い相同性が認められたが,これをコードする遺伝子はS遺伝子座と遺伝的に連鎖していないことが明らかとなった.一方,柱頭組織の蛋白質抽出液について二次元電気泳動を行ない,S遺伝子に特異的な蛋白質の検索を行なった結果,S遺伝子型個体に特異的と考えられる比較的メジャーな蛋白質スポットが,酸性ないし中性付近の60〜80kDのサイズ範囲に見い出された.2つの遺伝子型に分離する集団から得た各々3個体について分析した結果,優性遺伝子に相当する特異的な蛋白質スポットが検出され,ヘテロ型個体において検出される蛋白質スポットと表現型とは完全に一致していることが確かめられた.以上の結果から,サツマイモ野生種の柱頭においてS遺伝子産物に相当する蛋白質が同定された.今後,これら蛋白質のN末端のアミノ酸配列の決定やこの蛋白質をコードするcDNAクローンの解析などを通して,サツマイモ野生種の自家不和合性に関与する蛋白質の性質を明らかにしていたと考えている.
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