研究概要 |
1.幼植物の生長に発育制御:幼植物の生長パターンを調査した結果,見かけ上,幼芽の発育が停止し,中茎だけが伸長する個体が認められた.この形態は,幼植物期に特有の土壌中の出芽という問題に対する適応形態と考えられる.このMC個体の発現機構について解析を行い,各種植物ホルモンの作用を検討した結果,MC個体の発現には,主として,アブシジン酸が関与していることが示された.2.分げつの形成と生長過程の解析:分げつ期の水稲に深水処理をして強制的に分げつ出現を抑える実験,分げつ出現の止まった出穂期の水稲に刈り取り処理をして再生を強制する実験を通し,次のことが明らかとなった.すなわち,分げつは,母茎の葉腋に細胞集団の隆起として生じてから,分化を続け,芽としての形態を整えた時点で,一つの生育相を終える.次の生育相としては,連続的に葉を分化・伸長させて,分げつとして出現し生長を続ける場合と,分げつ芽のままの状態を保つ,すなわち休眠する場合とがある.3.茎の伸長節間の形成と生長過程の解析:浮稲2品種を用いて茎の発育における相の転換について検討した結果,栄養成長期における第1次伸長節間形成相から第2次伸長間形成相への転換は,深水処理や水欠乏処理等の環境要因には影響を受けず,遺伝的な性質と見られる.また,植物ホルモンのジベレリン処理と内生ジベレリンの生合成阻害剤処理の結果から,植物ホルモンの中で,ジベレリンが伸長節間の形成に深く関わっていることが示唆された.4.頴果の発育制御:植物成長調節剤処理の実験より,サイトカインが頴果の初期生長の促進に関わっていることがわかった.また,その時の生長反応は,source/sink比を増加させた場合の弱勢な頴果の生長反応に酷似していることから,イネは,サイトカイニンを通して,1穂の中の頴果間に初期生長の差を生じさせ,頴果に登熟の優先度をつけていると考えられた.なお,アブシジン酸は阻害要因として働いている可能性が示唆されたが,さらに検討が必要であると思われた.
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