研究概要 |
トマト果実の成熟(赤熟)は,果実の肥大成長が終わった後に生成するエチレンによって引き起こされる.しかし,エチレン生成がどのような因子によって制御されているか不明である.一方,果実の成熟が遅れるNr-2突然変異体トマトの成長反応の観察からアブシジン酸(ABA)含量の低下が推定され,ABAがトマト果実の成熟開始因子として働いていることが考えられた. 本研究では,Nr-2トマトの茎葉および果実の肥大・成熟途上におけるABA含量の変化やABAに対する感受性の変化,外生ABAによるNr-2果実の成熟誘導を調べ,以下の結果を得た. 1. Nr-2トマト種子の性質:Nr-2の種子は,正常型のRutgersやFukkenおよびエチレン非感受性突然変異体Nrの種子に比べて,吸水開始から発芽までの時間が短かく,また外生ABAに反応して発芽が遅れた.これから,Nr-2ではABAの感受性には変化がなく,含量が低下していることが示唆された. 2. Nr-2トマトの茎葉・果実のABA含量:Nr-2トマトの茎葉のABA含量は,第4葉期,花芽分化期,着果期,および肥大期の何れのステージでもRutgersやFukkenと有意差がなかった.他方,肥大期のNr-2果実のABA含量は,ゼリー;果皮中で212 ; 66.1ng/g fr. wt.であり,Rutgers (1462 ; 150)やFukken(850 ; 238)に比べて小さく,Nr (284 ; 88.7)と同レベルであった. 3. Nr-2緑熟果実へのABA投与による成熟反応の誘導:Nr-2緑熟果(果重35g)に26.4μg ABAを注入すると成熟反応を誘導することができた. 以上のことから,Nr-2ではABA含量の低下が成熟遅延の一つの原因となっており,ABAはトマト果実の成熟の開始反応と密接に関わっている可能性が示唆された.
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