研究概要 |
ニジマスにn-3あるいはn-6系脂肪酸に富む飼料を与え,筋細胞内のCa^<2+>濃度を支配する筋小胞体の能力を制御し,致死後の魚体を安静化することによって,魚肉の鮮度などの品質の改善を計ることを目的として研究を行った.以下はその成果の概要である. 1.1カ月間の試験飼育の後,筋肉の脂肪酸組成を調べたところ,中性脂質およびホスファチジルコリン(PC)画分の脂肪酸組成は飼料脂質の脂肪酸組成に強く影響された.また,影響は小さいものの,ホスファチジルエタノールアミン(PE)画分も,n-3系飼料ではn-3系に富み,n-6系飼料ではn-6系脂肪酸に富むという結果が得られた.これらの結果により,中性脂質およびPCにおいて飼料による脂肪酸の交換が盛んであることが確認された. 2.筋肉中の生体膜の大部分を占める筋小胞体膜を単離してその脂肪酸組成を調べたところ,一ヶ月程度の飼育期間でも飼料によって筋小胞体の脂肪酸組成を制御できることが明らかとなった. 3.氷蔵で貯蔵実験を行ったところ,n-6系投与区よりn-3系投与区で見かけ上のATPの減少が緩やかで,K値の上昇も抑制された.また,乳酸の蓄積もn-3系投与群で遅延された.こうした従来の鮮度判定法では,n-3系飼料の投与がニジマスの鮮度保持に有効である可能性が示唆された.一方,クレアチンリン酸の減少速度と乳酸の蓄積速度から算出したATPの分解速度は,n-6系脂肪酸投与区で小さくなった. 4.EFA欠乏あるいはn-6系脂肪酸に富む飼料を投与したニジマスから得られた筋小胞体のCa^<2+>ATPase活性はn-3脂肪酸投与区のものより高かった. 以上の結果から,n-6系脂肪酸投与により死後の筋細胞内Ca^<2+>濃度の上昇は抑制されるものの,その他の因子によって見かけ上のATPの減少や乳酸の蓄積などの死後変化が促進されるものと考えられた.しかしながら,本来のATPの分解は抑えられることが明らかとなった.今後,Ca^<2+>以外の死後変化促進因子を明らかにする必要がある.
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