研究概要 |
心筋細胞α_1受容体は,種々の哺乳類心筋細胞において,単収縮時間延長と収縮蛋白質Ca^<2+>感受性増強に伴われた特徴的な陽性変力作用を惹起する。一方,心筋細胞α_1受容体は,心筋細胞肥大や虚血再灌流時の不整脈発生に関与していることが明らかになり,その病態生理学的意義の重要性が認識されてきている。α_1受容体刺激は,イノシトールリン脂質(PI)代謝を促進し,その結果inositol 1,4,5-trisphosphate(IP_3)とdiacylglycerol(DGA)を生成する。 ウサギ心室筋細胞においてはα_<1B>サブタイプが約60%を占め,主として陽性変力作用とPI代謝促進に共役されている。残りの約40%はα_<1A>サブタイプに属するが,α_<1D>サブタイプの存在も心筋細胞で確認されている。今年度の研究においてα_<1A>サブタイプは陽性変力作用とともに,PI代謝促進を伴う陽性変力作用に対して抑制性効果をも引き起こすことを明らかにし,その機序の詳細を分析した。α_1アゴニスト・メトキサミンは,PI代謝促進を起こすエンドセリン(ET-1, ET-3)の陽性変力作用を抑制した。この抑制効果は,α_<1B>遮断薬クロルエチルクロニジンの存在下でも起こり,WB 4101や(+)-タムスロシンで拮抗されるので,α_<1A>サブタイプ刺激を介して起こるものと考えられる。さらに[Ca^<2+>]_o上昇,Bay k 8644,ホルスコリンなどの陽性変力作用はメトキサミンで影響を受けず,またエンドセリンによるPI代謝促進はメトキサミンで阻害されないので,メトキサミンンの抑制効果はPI代謝促進以降のシグナル伝達過程で発揮されるものと推定される。このように本研究の結果はα_<1A>受容体が,陽性変力作用のみならず陰性変力作用にも共役されており,その受容体はメトキサミンで効果的に刺激されることを示す。またフェニレフリンは抑制性α_<1A>受容体サブタイプに対してメトキサミンほど効果的なアゴニストではないことが示された。
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