研究概要 |
これまでに我々は、細胞タンパク質であるCu,Zn-SODが糖尿病や老化に伴い非酵素的に糖化を受け、断片化されて失活することを明らかにしてきたが、今回はこの糖化Cu,Zn-SODによるDNA障害について検討した。その結果、糖化したCu,Zn-SODとインキューベートすることによりクローン化したDNAが切断されることが確認された。更に、単離した核のDNAでも糖化Cu,Zn-SODによる断片化が認められた。このDNA切断は金属イオンのキレーターやヒドロキシルラジカルのスカベンジャーによって抑制されたので、このDNA切断反応における糖化Cu,Zu-SODならびに遊離したCu^<2+>を介したフェントン反応の関与が示唆された。 更に、ヒトCu,Zn-SODのバキュロウイルスを用いた昆虫細胞での大量産生系を確立し、この系を用いて野生型ならびに筋萎縮性側索硬化症(ALS)で見い出された3種類の変異酵素(Gly41Asp, His43Arg, Gly85Arg)を発現させ、精製した。Gly85Argは野生型に近い活性を示したが、Gly41AspとHis43Argの活性は約半分に減少していた。この活性低下の原因としては、構造上の不安定性や過酸化水素による失格などが考えられ、こうした変異酵素の活性低下によってALSの発症が誘導される可能性が示唆された。 また、ミトコンドリアに存在するMn-SODはTNFやIL-1によって誘導され、こうしたサイトカインの作用によって生じる活性酵素を消去している。今回の研究から、Mn-SODのみならずCu,Zn-SOD、カタラーゼ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼといった多くの抗酸化酵素の発現がTGF-βによって抑制されることが確認され、こうした抗酸化酵素の活性低下とTGF-βによるアポトーシスの誘導との関連が示唆された。
|