ラット補体制御膜因子として5I2Agを精製するとともに、そのcDNAもクローニングしたので、5I2Agの生体内での役割を明確にし、それの異常が種々の病態を引き起こすことを明らかにするための検討を行った。 (1)ラットヘパトーマ由来の腫瘍細胞に5I2AgcDNAのアンチセンスDNAをトランスフェクトすると、5I2Agの発現を抑制できることを確かめた。発現動態の解析は5I2Agに対するモノクローナル抗体(mAb)である5I2を用いて蛍光染色し、FACScanで解析した。 (2)生体内での5I2Agの発現をアンチセンスcDNAでin vivoで抑制するための基礎が充分確立するに至らなかったので、5I2Agに対するmAbを投与して5I2Agの機能をブロックする方法で検討を行った。5I2Agに対するmAbである5I2のF(ab′)_2を作成し、これをウイスターラットの静脈内に1mg/kgに投与した。投与に先立ち、動脈内に挿入しおいた血圧計を用いて血圧の継時変化を記録した。5I2投与直後の2分前で軽度の血圧上昇を来した後、血圧低下が起こり、回復には40分以上要した。コブラ毒因子(CVF)を前日に投与して、血中の補体価を下げておくと、5I2投与によるこのような変化は認められなかったので、補体反応が介在した血圧低下反応であることがわかった。anti-C3を用いて、補体C3の組織等への沈着をしらべてみると5I2投与5分後には全身の血管内皮細胞にC3の沈着が認められたが、30分後にはC3の染色は弱くなっていた。補体反応が起こるとC3aやC5aなどのanaphylatoxinsが形成されるので、これらのanaphylatoxinを不活化する作用を持つCarboxypeptidaseも生体内の反応の制御に働いていると予測した。そこでCarboxypeptidase inhibitorを投与しておいてみると5I2投与による血圧低下が遷延し、多くのラットはそのまま死亡した。従って、生体内では炎症反応を抑制するカルボキシペプチターゼの役割も大きいことがわかった。
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