研究概要 |
赤痢菌はヒト体外-腸管腔-上皮細胞内の著るしく異なる3つの環境を巡回し,従って本菌のビルレンス因子は感染の各過程で合目的な発現調節を受け作用するものと考えられている。そこで赤痢菌が各感染過程に於て外界変化に応答し、いかにビルレンス発現調節を行っているか,温度シグナルを例にとり,さらにビルレンス調節遺伝子系として働く染色体性ビルレンスの解析を実施し、又上皮細胞感染後のビルレンス遺伝子の発現動態の解析を試みた。第一では,本菌の細胞侵入性遺伝子の温度依存的な発現調節系の解析を行い,細胞侵入性が37℃で発現し30℃で抑制される仕組みを分子レベルで明らかにした。具体的には,細菌侵入性遺伝子群の正の調節遺伝子であるvirBの転写が温度に強く依存して発現することが,本現象の本体であることを示唆した。さらに本研究ではvirBの転写にVirFとHNSが各々正と負に働くこと,さらに37℃に発育させた菌のvirB DNAは強く負の超ら旋構造を有していることを明らかにすると共に、virBのVirFによる転写活性はこの超ら旋構下に活性化されることを初めて示唆した。第二は、染色体上のビルレンス調節系遺伝子の同定とその詳しい遺伝子解析を実施した。その結果すでに大腸菌K-12でtRNAの修飾酵素をコードすることで知られる,totとmiaAが各々赤痢菌のビルレンス遺伝子群全体を正に支配するVirFの産生に必須であることが示された。第三は,赤痢菌の上皮細胞間の菌の伝播に関わるvirG遺伝子の,本菌の上皮細胞侵入後の遺伝子発現を解析した。virG下流にルシフェラーゼ遺伝子を連結させ,赤痢菌へ入れた後,ルシフェラーゼ活性を指標に,virG発現を経時的に測定した。その結果virG発現は細胞内へ侵入後,菌の分裂期に最も高まり,隣接細胞へ拡散時には低下した。
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