研究概要 |
マウス胎仔におけるT細胞の生成機構について,胸腺へ移行する前の前駆細胞と,胸腺内の前駆細胞の性質をあきらかにし,T細胞初期分化の機序をかなり明確にすることができた.胎児期の造血幹細胞はAGM(aorta, ganadsおよびmesonephros)部位で発生し,その後肝臓(fetal liver, FL)に集中する.胸腺へ移行する前の前駆細胞としてFL細胞を用いて解析した.また,T細胞への分化能の解析にはデオキシグアノシン処理した胎仔胸腺(FT)lobe)(dGuo-lobe)との共培養法を用いた.FL中の幹細胞は,いろいろの系列への分化マーカー(lineage marker, Lin)に対する抗体とc-kit抗体を用いて,Lin^-c-kit^+群にあることが知られている.本研究では,Lin^-c-kit^+群をさらに抗FcR抗体によってFcR^-,FcR^+,FcR^<++>群に分けられることを明らかにした.FcR^<++>群はミエロイド系列へのみ分化する.FcR^+群は,ミエロイド系列のほか,B細胞への分化能を保持している.FcR^-群はT,B,ミエロイドすべてに分化し得ることが示された.したがって,胸腺へ移行するのは多能性を保持しているFcR^-群あるいはこの群に含まれるproTであると考えられた. 胸腺中の未成熟な細胞としてCD4^-CD8^-CD3^-群が知られているが,この群はCD44とCD25によってさらにCD44^+CD25^-,CD44^+CD25^+,CD44^-CD25^+,CD44^-CD25^-に分画される.この中で最も未成熟とされる細胞群はCD44^+CD25^-群である.従来,CD44^+CD25^-群はT系列への分化を開始しているか否かは不明であった.本研究では,T系列特異的転写因子に対する抗体を作成し,CD44^+CD25^-群の約30%がTCF-1,GATA-3を発現していること,すなわちT系列分画していることを明らかにした.しかも,TCF-1,GATA-3に対するantisense oligonecleotideを培養系に加えることにより,T細胞の生成は完全に抑制されることが明らかとなった.さらに,これらT系列へ分化している細胞を取り除き,Bおよびミエロイド系列へ分化し得る画分を得ることにも成功し、FL前駆細胞との関係を解析することが可能となった。
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