研究概要 |
胃がんの成因に食生活の関与が大きいことが疑われて久しいが、未だ必ずしも胃がんと食生活の関連は明らかとなっていない。特に、日々の栄養素摂取状況との関連の実態は殆ど手つかずである。これら一連の胃がんと各種栄養素摂取との関連を明らかにすることを目的として、我国において胃がんの発症にリスクの差があることが知られている6地域住民(胃ガン死亡率が高く、高発症の青森、秋田、新潟、中間的な福岡、低発症の鹿児島、沖縄)の実際の食事中微量元素量(セレン:Se マンガン:Mn,亜鉛:Zn,銅:Cu,鉄:Fe,硫黄:S,マグネシウム:mMg,カルシウム:Ca,リン:P)を実測して、微量元素摂取量と胃がんとの関連について検討した。 食事内容は、胃がん高発症県では漬物、干物などの塩蔵の高塩食品の摂取量、摂取頻度ともに明らかに高く、穀類、味噌汁などの摂取が多く、いも類、生野菜類、緑黄色野菜類などの摂取量が少ない傾向があった。そして、胃がん高発県である青森、秋田両県ではNaの摂取量が多かった。食事摂取量は青森県、秋田県、鹿児島県で多く、新潟県、沖縄県では少なかった。胃がん高発症の青森、秋田県ではNaの他、Mnの摂取量が高値であり、低発症地域では低値であるという特色が見られた。また、青森県ではSe摂取量が高値であることが目立った。Seの不足はがんの危険因子という報告があるが、Seは適量と中毒量の幅が非常に狭く、青森、秋田の地域の摂取量は世界の平均的摂取量に比較しても高値であつた。若干のずれはあるものの胃がん高発県でZn摂取量が低値であったが、沖縄県は少し傾向が違った。S及びPの摂取量は食事摂取量の多い青森、秋田、鹿児島の各県で高値の傾向があった。Ca摂取量は鹿児島県で特に高値であつた。Mg,Fe摂取量は個人差が大きく地域による有意の差異は認められなかった。米飯からの摂取をみると、福岡,鹿児島両県では米飯からのP,S,Fe,Zn,Cuなど摂取量が高値で、沖縄では米飯からのCa摂取量が高値であった。米は約3倍量の水を加えて炊くので、米飯中ミネラル濃度は他の食品より、その地域の水中ミネラル濃度に影響されるところが大きく、しかも毎日主食として多量に摂取する食品であるため、米飯からのミネラル摂取量は無視できないものがある。また、毎日多量に飲む水からのミネラル摂取量も考慮する必要があると考えられる。しかも、微量で大きい作用をもつ微量元素は日々の僅かな摂取量の違いが健康に与える影響は大きいものと考えられる。以上から、胃がんの危険因子として、高Na,Mn,Se摂取と低Zn,Ca摂取などのミネラル摂取量または摂取バランス、タイプなどが考慮される。しかし、胃がんの最も低発症地域である沖縄県のみは、必ずしもこのパターンには当てはまらない部分が多くある。沖縄地方は見かけ上の食事献立からみると、味噌汁が多いなど、むしろ、胃がん高発症の東北地方と類似した点も多いが、本質的にその内容に大きな違いがある。例えば、味噌汁の中に豚もつや野菜など具を沢山入れる習慣があり、また、豚、もつを中心とした食生活、ライフスタイルなどミネラル摂取を上回る強い因子の存在が予測された。
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