研究概要 |
唾液中のIgAクラス特異抗体は局所産生性であり,局所での感染防御抗体の存在の情報を提示し,またIgGクラス特異抗体は血清から滲出したものであり,感染の有無に関する情報を血清に代わって提示する.本研究では,唾液はHIV感染の病態・診断や疫学調査において有用な情報を提供するかについて検討し,以下の成績を得た. 1 唾液中のHIV特異抗体測定の有用性:唾液中のHIV抗体検出の恒常性について検討した.HIV感染者32例の唾液では,ELISA法で30例が抗体陽性で,2例は判定保留であった.この判定保留例を含め,継続採取した症例の唾液からは常に抗体が検出できた。検出感度を向上させるための改善をELISA法あるいはWB法に応用することで,唾液からHIV抗体を確認することは可能と考える.唾液を材料としたHIV抗体検査は,診断に用いることには検討すべき点が残されているが,ELISA法では血清とほぼ同程度に抗体を検出できること,また唾液中に抗体が恒常的に存在していることが示され,HIV感染の疫学調査において,唾液はHIV抗体のスクリーニングに有用であることが示唆された. 2 HIV,HSV抗体疫学調査・研究における唾液の有用性:個室付特殊浴場女性従業員(SB)についてHSV,HIVの抗体保有状況を唾液を用いて調査した.SB群のHSV抗体陽性率は84%以上と極めて高く,継続観察において陽性率の上昇が観察された.HIV抗体陽性例は0であったが,HSVの成績からHIVの感染リスクも高いものと思われた.本研究で得られたHSVに関する成績は,HSVの蔓延率を知るための疫学的調査・研究において唾液を用いた抗体測定が有用であることを示唆している.
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