研究概要 |
当教室ならびに兵庫県監察医務室において行った法医解剖例のうちで,アルツハイマー型痴呆(ATD)と生前に診断されていた5例(症例1および症例3〜6)および65歳以上の非痴呆3例(症例2, 7, 8)について,剖検時に摘出した脳の重量を測定し,右半球をそのまま4%ホルムアルデヒド溶液に浸漬固定し,左半球に0.5〜1.0cmの厚さで前頭断を施し,4%パラホルムアルデヒド-0.01Mリン酸緩衝溶液(pH7.4)で2, 3日固定後,15%しょ糖-0.01Mリン酸緩衝溶液(pH7.4)に浸漬し保存した.左右それぞれから,海馬,扁桃核,前頭連合野(上前頭回),側頭連合野(上側頭回),連合連合野(角回)および高次視覚連合野を切り出し,右半球には,古典的染色に加え,蛍光抗体法によるアミロイド染色を施し,左半球に対しては,GFAP,ラクトトランスフェリン(LF)およびHLA-DR等の抗体を用いた免疫組織化学的染色を行った.LFによる老人斑(SP)およびアルツハイマー原線維変化(NFT)の検索では,ATD症例それぞれにおいてSPが優位に出現するもの,NFTが優位に出現するものがあり,また,好発部位においても一定していなかった.さらに同一症例においても部位によってSPが多数出現する部位とNFTが多数出現する部位があり,極めて多彩な表情を示した.GFAPによるreactive astrocyteおよびDRによるreactive midrogliaの検索ではATDのみならず対照群においても出現が認められたが,概ねATDに多く認められ,しかも,SPおよびNFTの出現頻度の高い部位に多く認められる傾向にあった.痴呆症状の有無が不明であった.2例については,部位別に程度の差は認められるが,総合的に判断すると,ATD症例であったと推定された.しかし,変化の認められない部位もあり,法医鑑定に応用するためには,本研究で行なったように連合野皮質全般にわたって検索を行ない,総合的に判定する必要があることが示唆された.
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