研究概要 |
申請者らは,肝類洞内皮細胞はトロンビンの不活性化のみならずプロテインCを活性化することにより最も重要な抗凝固因子と考えられているトロンボモジュリンの発現が軽微であることを報告した。本年度は更に、tissue factorによる血液凝固の開始を抑制するtissue factor pathway inhibitor(TFPI)が肝類洞内皮細胞には発現していないことも見いだした。これら他臓器末梢血管と著しく異なる肝類洞の内皮細胞における特殊性は、同所性肝移植後肝不全の成立に関与していると考えられ,標的抗凝固療法としてはTEPI及びトロンボモジュリンを補給する方針を決定した。 TFPIはヘパリンと結合する性質を利用して、蛋白レベルでの標的療法が可能であることを明らかにした。組替え型TEPIをラットに静注すると血中から速やかに消失するが,抗TEPIポリクローナル抗体を用いた免疫電顕により類洞内皮細胞及びDisse腔内の肝細胞微縦毛膜に結合していることを証明した。この染色性はヘパリンナトリウムを静注すると減弱し,TEPIが血中で再び検出されることから同部のヘパリノイドに結合していると考えられた。 トロンボモジュリンはcDNAを用いた遺伝子レベルでの標的療法を開発中である。遺伝子導入に必要なトロンボモジュリンの全長cDNAをクローニングし,SV40プロモーターと結合した。遺伝子導入には類洞内皮細胞に豊富なマンノース受容体を利用する方針を決定した。疎水性のポリビニルと親水性のマンノースを結合して水層内でミセルを作成,これをFITC標識して経門脈的にラットに投与すると肝類洞壁に沿って蛍光が観察された。このミセルにトロンボモジュリンのcDNAを封入して投与することにより,類洞内皮細胞におけるその発現増強を目指している。
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