研究概要 |
Mongolian gerbilを用いて2分間のsublethal ischemiaを施した動物と何も加えなかった動物に5分間のlethel ischemiaを加えた時に、2分間虚血をpretreatmentした動物では、海馬CA_1錐体細胞は死滅せず生存することができることが知られている。本研究ではpretreatmentはlethal ischemiaがもたらされた時、その脳代謝障害を軽減して、lethal ischemiaの傷害を軽減したかどうかについて検討を行った。 ATP,PCrの高エネルギー燐酸化合物は、5分虚血により海馬および皮質において、Non-pretreatment群(Non-PT群)およびpretreatment群(PT群)ともほぼ0となり、lactateは6〜7倍に増加した。それらの減少または増加程度に差を認めなかった。pyruvate dehydrogenase (PDH)活性は海馬および皮質において約2倍に増加し、Non-PT群とPT群との間に差異を認めなかった。再開通1日までATP,PCr,lactateの脳代謝諸量は、海馬および皮質において、Non-PT群ともにほぼ同様の経過にて速やかにコントロールレベルに復した。PDH活性は両部位で両群とも再開通10分で低値を示し、その後1日までにコントロール値となった。両群間に差はなかった。3日後では、海馬においてNon-PT群はATPレベルの低下がみられ、7日後ではATPおよびPCrの高エネルギー燐酸化合物が著しく減少した。lactate値は再開通60分以後7日まで両部位においてコントロール値の範囲であった。皮質ではこれらの脳代謝諸量およびPDH活性はNon-PT群およびPT群もほぼ変化を認めなかった。 以上のごとく脳エネルギー代謝において、再開通3日後頃まではNon-PT群およびPT群との間に、差異がなかった。したがって5分のlethal ischemiaの侵襲はpretreatmentがされていてもいなくても同じ程度の虚血侵襲として加わっていることが示された。また、本研究ではpretreatmentは海馬において3日以後に発生してくる遅発性神経細胞死を抑制することをエネルギー代謝の面から示した。
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