研究概要 |
神経成長因子(Nerve growth factor,以下NGF)は,神経冠由来の細胞の分化・成熟と生存維持に関与している。本研究の目的は,NGF,その受容体と細胞シグナル伝達が,神経冠由来腫瘍である神経芽腫(Neuroblastoma,以下NB)の分化・成熟と自然退縮に果たす役割を検討,最終的には進行NBの予後改善を計ることにある。NB細胞株で以下の3点につき検討した。 細胞株でのtrk A発現: 14種の細胞株中,6例(43%)でtrk A発現が見られた。 2.NGFによるtrk Aとfos発現の変化: KP-N-RT株(trk A発現陰性),NB-1とKP-N-SIFA(trk A発現陽性)の3種の細胞株を30分間NGFで処理,trk Aとfos発現の変化を検討した。KP-N-RT株ではfos(early gene)発現は見られなかった。しかしNB-1とKP-N-SIFA株ではfos発現が見られた。 3.γ-interferon,retinoidさらにNGF処理によるtrk Aとfos発現の変化: NB-1とKP-N-SIFA株をγ-interferonまたはretinoldで7日間,その後さらに30分間NGF処理,trk Aとfos発現の変化を検討した。NB-1とKP-N-SIFA株では,NGF処理のみに比較してtrk Aとfos発現は著しく増加した。またtrk A蛋白のチロシン残基のリン酸化が見られた。 以上よりtrk発現陽性まNB株は,NGFに反応,その細胞シグナルが核内のfosまで伝達されること,またγ-interferonとretinoidでtrk A発現を増加させると,NGFによる細胞シグナル伝達が増強されることが判明した。今後NGFのtrk Aを介する細胞シグナル伝達の解析は,乳児NBの分化・成熟と自然退縮,予後不良である乳児NBの増殖の機序を一層明らかにすると考えられる。
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