研究概要 |
ヒト甲状腺がん細胞を用いてTGF-β1添加後のc-myc mRNAの発現を検討し、その結果からc-mycアンチセンスオリゴヌクレオチド導入実験を行なった。次にゲルシフト法によりプロモーター領域に特異的に結合する蛋白の存在を検討した。結果は甲状腺がん細胞出はTGF-β1によりDNA合成、細胞数増加の抑制と同時にc-myc mRNAの発現の低下が認められた。しかもc-mycアンチセンスオリゴヌクレオチド導入実験では細胞増殖抑制作用が確認された。CAT assayの結果からc-myc遺伝子の転写活性因子と考えられる蛋白の結合の減少が確認された(Endocrinology1994)。更にヒト甲状腺がん組織を用いたPTHrPの発現異常についてin situ hybridizationの手法を用い解析した。他の内分泌腺癌についてもPTHrP発現の検索をした。いずれも投稿発表した(J.Pathology1995,Miner Electrolyte Metal 1995)。放射線照射実験系からはS-hydroxyguanineを指標にしたDNA損傷の経時的変化を明らかにすることができた。同時にがん細胞の放射線抵抗性はDNA損傷の程度に差はなくてもp53異常のために細胞周期の異常が存在し、アポトーシスが誘導されないことを明らかにした。その他、甲状腺髄様癌のret遺伝子異常の解析を行い、又マウス甲状腺由来のhemangioendotheliomaの樹立に成功した(いずれもEndocrine J1995に発表)。前年度のヒトにおける被爆線量再評価の発表成果(Health Phys 1994)を背景に具体的な放射線誘発甲状腺がんの発症分子機構を解析した。in vivo,in vitroの実験からヒト正常甲状腺細胞は放射線によりアポトーシスが誘導されにくいことが判明した。同時に甲状腺がん細胞は放射線抵抗性であり、その分子機構の1つにp53の下流域標的遺伝子の伝達障害の存在が明らかにされた(Cancer Res 1995)。さらに放射線抵抗性とEGF受容体のリン酸化との関係を解析した(Cancer Lett 1995)。チェルノブイリ関係の論文も甲状腺生検および病理所見を中心にまとめることができた(Thyroid1995,1996)。現在放射線障害によって惹起される遺伝子再配列とりわけret rearrangement(PTC1,2,3)の解析とDNA修復酵素群XRCC4に注目した検討を行っている。PTHrPに関する実験系ではアンチセンスを用いた腫瘍抑制効果を実証し報告した(Cancer Res 1996)。
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