研究概要 |
我々は,ラットDMBA誘発乳癌で,エストロゲン依存性細胞増殖に伴いコリンキナーゼ活性が上昇し,蛋白レベルが増加することを発見した.ラット乳癌でコリンキナーゼ遺伝子に結合する発現調節因子はエストロゲン依存性に活性が調節されることが予想された.そこで,2種類の方法でこの因子の解明を試みた. 1,コリンキナーゼ活性化因子を解析するためにコリンキナーゼ遺伝子の5'領域のクローニング,塩基配列決定を行った.プロモーター領域と考えられる部位はハウスキーピング遺伝子の特徴を示すばかりでなく,種々の調節因子が結合するエレメントと相同性の高い配列がみられ,発癌剤3-メチルコラントレンと肝毒性の四塩化炭素により実際に調節されることを示した.両物質とも肝臓でコリンキナーゼ活性を上昇させ,蛋白及びmRNAを増加させた.転写開始部位を解析すると,正常状態では使用されない転写開始部位からの転写の活性化が判明した.しかし,エストロゲン受容体が転写に関わる配列やエストロゲンレスポンシブエレメントに相同性の高い配列は見出されなかった. 2,次に,エストロゲン依存性に発現する遺伝子のcDNAの採取を行った.ラットDMBA誘発乳癌及びヌードマウス可移植性乳癌細胞株MCF-7腫瘍で,エストロゲンの存在する状態あるいは存在しない状態(卵巣摘出,エストロゲンペレット除去)の腫瘍からRNAを採取した.逆転写反応を行ってcDNAを合成し,ランダムプライマーを用いてPCR増幅反応を行った. PCR産物を電気泳動し,エストロゲンの有無による発現パターンの違いを検出した.ラット乳癌ではエストロゲン依存性に発現する遺伝子のcDNAを13個, MCF-7腫瘍では39個採取し,現在解析を進めている.今後も,乳癌におけるエストロゲン依存性細胞増殖機構の解明と,エストロゲンによるコリンキナーゼ活性化機序の解明とを平行して行う予定である.
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